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【SS】目が覚めたら…?
第25章 【ファン感謝】白雪姫 ①猟師(ハル)
シズSide
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
迫り来る犬の吠え声と、人の駆け足。
日が傾く薄闇の世界の中、あたしは山の深層へと駆けた。
城の中も外も、あたしの安穏出来る世界はなく。
ひとときでも平和を感じられたのは、ハルの存在ゆえだと思い起こせば、ハルを失った心の隙間に冷たい風が通り抜け、その痛みに涙が零れる。
隠れても隠れきれない。
「いたぞ、あっちだ!!」
「捕まえろ、姫の生首を差し出せば、女王はなんでも願いを聞き遂げてくれると約束したんだ!!」
「女王の奴隷から解放され、国に帰れるんだ!!」
木陰にて、苦しい呼吸を整えていれば、視界に通り過ぎる人の影。
大仰な山狩りの支度に身を包んでいる男達に、見覚えがある。
あれは他国より"貢がれた"、美しい顔をした男達。
その多くがお母様に飽きられ、今は家畜のように扱われていた…そんな男達は、あたしの命の引き替えに、人並みの幸せを約束されたのか。
ああ、お母様。
なんでそこまであたしを嫌うの?
いつも子守歌を歌って添い寝してくれた、あの優しいお母様はどこに!?
優しい思い出が砕け散り、その断片が両極にある変貌した父と母の姿へと変わる。
恐い残骸が心に積もるのが嫌で、それを拾い集めて、元あった昔の幸せだった記憶にしたいのに、元に戻せない…決定的になにかが足りない欠片がある。
形があるのに、認識できない……なにかの記憶の断片が。
オトウサマハドウシテイナクナッタノ?
イママデオシロデナニヲノゾンデドウスゴシテイタノ?
いつもそれを空虚に思っていたあたし。
だけどその部分を、ハルが埋めてくれて…あたしは、満ちたような生活を送っていたんだ。
だからハルがいない世界は、こんなに荒んでこんなに凍えてこんなに恐ろしい――。
ハルから貰ったドレスは、瞬く間にボロボロとなった。
ハルとの思い出は消えていく――。