この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【SS】目が覚めたら…?
第25章 【ファン感謝】白雪姫 ①猟師(ハル)
雨除けのフードをかぶっていて、その顔の造りはよくわからないが、あたしはただの怪しい男としか思えなくて。
「や、離して!!」
「俺は敵じゃない、シズルさん、だろう?」
あたしは目を細めた。
ハルもあたしのことをシズと呼んでいた。
"シズル"
するすると、なにかがあたしの中から解けていく。
"シズル"
いつの頃からか、城であたしは自分の名前が白雪だと思ってしまった。他の呼び方をする人がいないから、疑問にも思わなかった。
なんで今まで忘れていられたの?
あたしが、あたしたる証拠。
お父様とお母様がつけてくれたあたしの名前は、"シズル"だ。
今まで見えなかった記憶の断片に、風景が少し見えた気がした……。
「なんで……あたしの"名前"を?」
「お噂はかねがね」
男は雨滴のついた眼鏡を外すと、吸い込まれそうな神秘的な黒い瞳を僅かに細めて微笑んだ後、きりりと口元を結んだ。
「ひとまず移動しましょう。俺を信用して」
この状況、なにが決め手だったのかわからない。
だけどあたしは、この男が信用出来ると思ってしまった。
こくりと頷くと、男は少し顔を綻ばせた。
「よかった、ありがとう。あの大木の下に行こう。雨を凌げる」
男はあたしの膝裏を掬うように抱き上げると、そのまま…幾分かは雨が滴る、木の葉をつけた枝を大きく拡げた大木の下に走った。