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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
料亭で散々にハル兄に愛され、まったりした後、(暴走)ドライブに連れられ、帰ってきたのは元旦夜中の9時過ぎ。
「シズ……」
それまで冗談を言い合い元気だったハル兄が、車を降りてドアノブにかけたあたしの手を引いて、切なげにぎゅっと抱きしめてきた。
「俺の魔法はここまで。明日は、ナツの番だ」
そしてあたしを離すと、ハル兄は沈痛な面持ちで、口元だけで笑った。
「勘違いするなよ。こうしてナツの時間を許しても、それでも俺は……諦めたわけではねぇ。俺がどんな風にお前を愛したのか……俺との時間を、俺の言葉を、俺の決意表明を忘れるんじゃねぇぞ。お前がどんなにナツに溺れても、俺が必ず引き揚げる」
そのドアを開けさせたくないと、その黒い瞳は苦慮に揺れているのに……そのドアを開けたのは、他ならぬハル兄自身だった。
「――さぁ。新たなる魔法の始まりだ」
佐伯宅のドアを開けた時、玄関の上り框にナツが項垂れるようにして、座っていた。
「あ、しーちゃん、波瑠兄、お帰りなさい」
その佇まいはどう見ても沈んだものだったのに、上げられたその顔は不自然すぎるほどに爽やかなもので、心に棘が刺さったようにちくちくした。
あたしとハル兄を映したココア色の瞳が、彼の意志の制御力を超えて、当惑に揺れている。
「――僕、帰ってこないと思った」
悲哀と歓喜を半々に織り交ぜたような複雑な表情。
今にも泣き出しそうにも見えるそんなナツの頭の上に、ハル兄はあたしを愛でた大きな手を乗せ、柔らかなナツの髪をくしゃりと撫でた。
「そういう……アンフェアなことはしねぇよ。それに帰らなかったら、お前……2日連続して眠れなくなるじゃねぇか。辛い時間をお前が過ごしたのなら、俺だってそうであるべきだ。……俺達は他人じゃねぇんだから」
「波瑠兄……」
「俺達がどんなに求めても、求めるものはひとつ。決定的な結論が出るまでは、俺達は全力で正々堂々といこうぜ? 俺も束の間だが楽しんだ。だからお前も楽しめ。サクラに連絡して、ちゃんと効果を出す手配はついてるんだろ?」
「うん……」
「そんな悲しそうな顔をすんな。今度は自分の番だと、胸を張れ。せっかくの魔法を……俺への遠慮に無駄遣いするな。ん?」
「ありがとう……波瑠兄」