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【SS】目が覚めたら…?
第26章 【ピックアップ御礼】その日……。
 

 僕はよろよろと壁伝いで洗面台へ行くことにした。


 波瑠兄はよく笑って、現役時代は頭突きで相手を倒したと僕に自慢していたから、僕が受けるダメージの方がかなり大きいに違いない。


 血、出てなきゃいいけれど。

 モデルのお仕事、続行出来るかな……。



「イタタ。ええと、ここらへんを……」



 そして、僕は鏡に向けて目を見開いた。


 なぜなら、僕が消えていたから。


 鏡に映っていたのは――

 追いかけてきてくれたらしい、僕同様に目を見開いた波瑠兄だけ。


 波瑠兄はいるのに、そこに僕の姿はなかったんだ。




「波瑠兄、ねぇ波瑠兄、僕の姿が――っ」



 僕の姿は消えてしまった――!?


 驚いて僕は、波瑠兄に振り返って現況を訴えた。



「波瑠兄――っ!?」


 だけどそこには、波瑠兄の姿はない。

 鏡の中にはちゃんといるというのに。


 僕の自慢の大好きなお兄さん。


 どこまでもオトコらしくて格好よくて、頭もよくて……だけどオンナにだらしない波瑠兄が、鏡の向こう側から僕と同じように指さしている。



 僕と同じように……。



「まさか、これ僕――っ!?」



 憂いを帯びた漆黒の瞳。

 ストレートの黒髪。

 浅黒い、精悍な顔。


 筋肉のついたがっしりとした肉体。


 オトコの色気。



 間違いない。


 僕と同じ動きをする波瑠兄――。



 僕は……



「――嘘っ!?」


 波瑠兄になってしまったらしい。


 僕が憧れてやまない、兄の姿に。


 
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