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【SS】目が覚めたら…?
第26章 【ピックアップ御礼】その日……。
【シズSide】
洗面台が騒がしいとは思っていたけれど、そこから居間に入ってきたらしい、佐伯兄弟。
ハル兄には先に会って、ピックアップされたということを事前に聞いていた。だからおばさんと朝市に行ってお祝いのちらし寿司を作っている。
さすがは料理のプロたる佐伯のおばさま。食卓テーブル分のちらし寿司を作り、『目が覚めたら。ぴっくあっぷおめでとう』の文字を、桜でんぶで描き、文字以外の部分をご近所様にお裾分け。
あたしは少し不機嫌そうな顔つきのナツに声をかけた。
ナツが朝からにこにこしていないのは珍しい。
不機嫌なのは低血圧と寝不足のせいだと豪語するハル兄の方が、やけに上機嫌になって、きらきらとして見える目をあたしに向けている。
……気味悪い。なにか魂胆があるんだろうか。
「おはよう、ナツ!! ねぇ、ハル兄から聞いた? 今日ピックアップされたんだって!! 嬉しいからちらしずしだよ」
「あ、ああ……。お袋は何処行った?」
陽気に声をかけてみたが、いつになくぶっきらぼう。
これは相当ご機嫌が悪いのか。
いや、それより――
「ナ、ナツが"お袋"? "母さん"じゃなく?」
まるで不機嫌虫、ハル兄菌が伝染したかのよう。
ナツはいつもにこにこと笑顔で優等生のような優しく丁寧な言葉遣いだから、あたしは驚いて撒いていた紅ショウガを床に零した。
それをささっと拾ってくれたのは、ハル兄。
手早く綺麗に、そしてやり残した卵焼きを目聡く見つけて、トントントンと包丁で細く切りながら、あたしに代わってパパパと撒いて仕上げていく。
その器用さと手際の良さ。
まるでおばさま、いやいやもっと小回りのきくナツなみで。
ハル兄が。
いつもふんぞり返って肉か海鮮を食ってばかりの帝王様が。