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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
ナツのポケットの中で手を繋いだまま、記憶に残っている道順を辿り、ナツと歩いていく。
12年のブランク――。
体はこちらの意志関係なく、12年で部分的に発育していた。変態じみた"誰か"が、愛情もって、うちの家のお野菜と同じように丹念に手で触れながら育ててくれた甲斐はあり、それなりにまあ…女っぽいものには成長していた(はずだと信じている)。
記憶はどうか。
最後の…12年前の記憶と違う外貌のナツと歩きつつ、12年前と変わらぬ道があることを願い続けて歩いていたものの、目に映る…記憶新たに展開されていくパノラマ風景に、驚く反面寂しくなる。
時の迷子になっているような、不安定さ。
変わらぬものなどなにもないと言われているようで。
あたしから、確固たる思い出が奪われているようで。
「しーちゃん、僕は変わってないよ」
聡いナツは、あたしの憂いを感じ取ったらしい。
繋げた手をぎゅっと強く握って立ち止まると、ミルクティー色のふわふわとした髪を風に揺らしながら、僅かに顔を傾げて言った。
「僕は変わらずにしーちゃんが好き」
切なさに瞳を揺らしながら。
「12年前と違うことは多いと思う。だけどその中にでも、変わらないものがあること、忘れないで」
ナツはあたしを両手で抱きしめる。
「僕の心は、なにがあっても変わらない」
囁くような、ナツ特有の甘い声が脳を蕩けさせる。
「しーちゃんが好き。しーちゃんが不安になったら、僕を思い出して。変わらない僕が、しーちゃんの手を取るから」
長い睫毛に縁取られたアーモンド型の目。
ココア色の瞳は、蜜がかかったように蕩けて見える。
風に揺れるのはミルクティー色の髪。
甘さに彩られた王子様。
繋げた手を持ち上げ、手の甲にちゅっと唇を落とす。
伏し目がちのナツの睫毛が、ふるふると小刻みに震えた。
ああ、ナツはなんて綺麗なんだろう。
顔だけではない、所作のひとつひとつに目を奪われる。
優雅に振る舞う王子様の唇の熱さが、冷えた体にじんわりと熱を拡げた。
「僕は、しーちゃんのそばにいる」
甘い甘い王子様。
寒い風を吹き飛ばす、ほかほかの温かさをくれる。
胸がきゅんとなった。