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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
神社の鳥居前。
一礼して鳥居の端を通り参道を進む。
手水舎(てみずや)で冷たい水をひしゃくでとって手を清めた。
カイロで温かくなっていた手が冷水に触れ、思わずぶるりと身震いすれば、ナツが笑いながらあたしの頬を手でなでなでして温めてくれる。
顔を見合わせながら微笑み合っていれば、
「うわ……見せつけてる。ねぇねぇ、不釣り合いな現実に気づかず、自分達だけの世界って気持ち悪くない?」
「あの女……なんか野暮ったい。特に着物浮いてない? あのイケメン可哀想。それともただ趣味悪いだけかな」
そんな悪意めいた女ふたりの声が聞こえてきた。
とても若くて溌剌とした……振り袖姿の女ふたり組。
とても美人な少女達だった。
わざとだということがわかる、とても大きな声音に、周りの人達も気の毒そうに、或いは同調するように嘲笑う姿が、あたしに向けられる。
あたしとナツの自然は、気持ち悪いらしい。
せっかくナツが作ってくれたこの素晴らしい着物も、あたしが着れば野暮ったく、ナツの足をひっぱる浅ましいものになってしまうだけ。
怖い。
人の目が怖い。
「しーちゃん……?」
あたしはぎこちなく笑って、ナツから遠ざかる。
ナツが格好よすぎればよすぎるほどに、あたしは見劣りしてしまう……12年前の記憶を持つポンコツアラサー。
ナツが作ってくれた真っ赤な可愛い着物だって、考えてみればアラサーが着るのは若すぎる。ナツが思って作ってくれたのは、きっと時間を止めた17歳のあたしであり、アラサーのあたしへの着物ではない。
ナツの捧げている愛は、12年前のものだとしたら……?
急に世界が真っ暗になり、なにも信じられないような気がした。
あたしを好きな気持ちは変わらないというナツの言葉ですら、すべては過去のあたしに捧げられたようで。
今のあたしはなに?
今のあたしは、皆から本当に受け入れられる存在なの?
幾らあたしの顔が童顔で、幾ら精神は女子高生感覚でも、幾ら若々しく装っても、19という実世界の年齢の横では、あたしが"まだ若い"とそう思い込もうとしているだけのまやかしにしか過ぎず、真実の若さには敵わない――。