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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
あたしは――
境内に走ってきてしまったらしい。
なんで参道を戻らなかったのか……。
かなり込みあっている中、あたしはよりによって女嫌いのモモちゃんに、突然泣いて抱きついたのだ。
そしてモモちゃんは、泣きじゃくるあたしを引き摺るようにして、社務所横にひっそりと佇む、誰も居ない古ぼけた弓道場に連れてきた。
中はひんやりとしていた。
「モモちゃん寒い……」
「第一声がそれかよ。なんであんたはそう自己中なんだよっ!!」
ぶつぶつ言うモモちゃんは突然に飛びついた衝撃をまだ引き摺っているのか、熱を出したように真っ赤な顔で、着ていた和装のコートを脱いであたしにかけてくれ、さらには首に巻いていたマフラーまでをあたしの首に巻いてくれた。
至れり尽くせり、バトラー精神のモモちゃん。
だけどやけになったように、ショールの上からぐるぐる巻きだ。
まるで絞め殺したいかのようだ。
「モモちゃん……」
「俺から防寒具をとって、次はなんだ!?」
「モモちゃん着物姿似合うね。若年寄……老け顔だから?」
「あんたなぁ……っ」
モモちゃんは落ち着いているから、外見20代でもいけるかもしれない。
ナツと居るよりは、まだモモちゃんと居る方が自然に見えるのだろうか。
それでもやはり、どんな19歳であろうとも、アラサーが寄り添うことは、あまりに滑稽すぎて無理な話なんだろうか。
「モモちゃん……」
「今度はなんだっ!!」
いまだ真っ赤な顔のモモちゃんは、律儀に返事をしてくれる。
いつもナツが絡むトラブルには救済に現われる、不思議な神がかりのモモちゃん。
だけど今回だけは駄目かも。
あたし、ナツがああいう風にまた笑われるの……もういやだもの。
ということは、モモちゃんとの縁もこれまでになるかも。
同時に大切なものをふたつ失った感覚に、無性に悲しくなった。
あたしはくすんと鼻を鳴らしながら、零れそうになる涙を隠そうと……モモちゃんのマフラーに顔を埋めた。
「モモちゃんの匂いがする……」
「――っ!!!? な、なんであんたは、そういうことを……」
モモちゃんの顔がさらに沸騰し、そしてよろよろとよろめきながら……弓道場から出て行ってしまった。
寒くないのかしら。