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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
 
「いつもいつも……僕の隣にはしーちゃんがいない。僕が見ているのは、いつもしーちゃんの背中で……」

「ナツ……」


「僕がどんなにしーちゃんが好きでも、しーちゃんは僕の言葉を信じない。どんなにしーちゃんとふたりで歩きたかったのか、どんなにふたりでいられる時間が嬉しくてたまらないのか。こんな幸せな僕を、誰もに見せつけてやりたいのに……それなのに、しーちゃんは逃げる。僕の前からいなくなってしまう」


 ナツは涙で濡れた目のまま、あたしの唇に……震えたままの唇を重ねた。

 ひんやりと……涙の味がした。


「僕が……いや? 僕が相手なら……恥ずかしい?」


 崩れてしまいそうなナツの顔。

 美しい顔を切なる悲しみに曇らせて、やがて絞り出すように聞いて来る。


「波瑠兄なら……いいの?」



 ぶるぶると震える唇が、くっと噛まれる。


「サクラのところなら逃げ込めるの? 僕より安心できるの?」


「ナツ、あたしは……」



「サクラが羨ましい。波瑠兄が羨ましい。

僕には……繋がっているという、夢も見せて貰えないの?」



 あたしより先に口を開いたのは、モモちゃんだった。




「馬鹿か、ナツ」



 冷ややかな眼差しをナツに向け、腕組みをして立っていた。

 そして彼は、


「新年早々見当違いなことで、俺に妬くな。いつもいつも巻き込まれていい迷惑だ。いつも……彼女はお前とのことで泣いているんじゃないか。その事実を、お前の方こそ逃げずにちゃんと向き合って見ろよ。……そこにどうして俺がツケ入ることができるって?」


 そう、投げ捨てるように言うと――




「羨ましいのは――俺の方だ」




 自嘲気味に笑い、道場から出て行った。

 ……マフラーと上着を残して。
 


 
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