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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
「あの……」
思わず呼び止めてしまったが、彼は聞こえていないのか、それとも聞こえていないふりをしているのか、振り返らなかった。
ああ、呼び止めてどうする気だったのだろう。
その手を取る気もないくせに、どうしようとしていたのだろう。
彼の正体がわからないように、あたしも自分の心がわからない。
だけど、胸がぎゅっと締め付けられるんだ。
あたしは非情なことをしたの?
あたしが拒んだことに、男が傷ついていたような気がして――。
少しばかり罪悪感を感じながらも、無言で進んで行く道は、やはり…なんとなくだが、身体が覚えている奇妙な気がした。
どこまでもひたすらまっすぐ、庭園を回り込むようにして、そしてきっと行き着くのは――。
「薔薇園……」
白い薔薇が絡まる弓形(アーチ)状の小さな入り口。
それを抜ければ視界いっぱいに飛び込んでくる、雪のような純白な白色。
そして思考を惑わせるような、むせ返るような甘い香り――。
そう、それは……、あたしの予感通りの場所で。
あたしは昔、この場所によくきていたことを思い出したんだ。
ここはお父様があたしのために、お母様に内緒で作ってくれていた薔薇園。お父様自ら手入れをしていて、ここを知るのはお父様と……同じぐらいの男の子もこの場所にいた気がする。
なんで忘れていたのだろう。
小さい空間ながら、囲む垣根や地面にも見事に咲き誇る、夥(おびただ)しい数の白薔薇は記憶に違わない。そして中央に、ひっそりとあるのは白いブランコ。
――だーめ、……には、絶対貸してあげないもん!!
記憶がゆっくりと動く。
あたしはあれを知っている。そしてここで、誰かと遊んでいた気がする。
あれは……黒髪で、メガネをかけた――。
「ねぇ、あなた……、もしかして昔……ここであたしと遊んでいた?」
昔ここで見た特徴を持つ風貌の男が目の前に立っている。
彼はもしかして、あの時の男の子だったのだろうか。