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【SS】目が覚めたら…?
第1章 お正月に目覚めたら。
「ナツぅ……おいしすぎる~。もうあたし、ナツのしか食べれなくなるかもしれない~。おいしすぎて泣けてきた」
「そう言ってくれると頑張った甲斐があったよ」
隣に座るナツは笑いながら、あたしの耳もとで囁く。
「ふふふ、今は泣かないで? 後でふたりきりの時に、僕の前だけでゆっくりと啼かせてあげる。たっ・ぷ・り・と」
「な!」
口を開こうとした唇にナツは人差し指をあててそれを制すると、ただ意味ありげな妖艶な瞳だけを向けてきた。
「ぴーぴーぴー。しーちゃん親鳥から餌をせがむ可愛いひな鳥みたいだね。ひな鳥さん、僕が餌をあげますよ。はい、あーんして下さーい」
ナツは微笑み、箸で料理をつまむと、あたしにあーんを促す。
どんな言葉を紡がれようが、ナツの綺麗な笑顔に癒やされて、気分がほっこりしたあたしは、自然に口を開ける。
だがそんな長閑な風景を邪魔した者がいた。
――ハル兄だ。
あの大きなタラバガニは、今食べている足で完食らしい。
この男、あんな大きなカニをひとりで食べたよ。どうして皆で食べようという心がないのだろう、これはきっと俺様タラバなんだな。
帝王はなにか言いたげなふて腐れたような顔で、最後のタラバガニの足を食いついていたと思いきや……こたつの中の足であたしの膝をゲシゲシと叩き始めた。
その度にナツのあーんが失敗に終り、箸が口に入らないどころか、終いには頬に掠って箸から零れ落ちれば、ハル兄は密やかに、ふふんと鼻でせせら笑う性悪さ。
帝王は喧嘩をしたいらしい。
大晦日にも病院で仕事して、疲れ切っているはずなのに、タフな男だ。
昨夜のハル兄の言葉では、病院は元旦はお休みらしく、今日一日ハル兄は完全フリーをやけに強調された気がするが、そのせっかくのフリーにあたしに喧嘩をふっかけるほど、ストレスが溜まっているのだろうか。
それともあたしの着物姿を不審げにじろじろと不機嫌そうに見ているから、この豪華な衣装がお気に召さないのかもしれない。
ハル兄が大好きな弟が作ってくれたものなのに。
だが如何せん、帝王に平伏し続けるこの愚民は、帝王の喧嘩をおいそれと買えるほどの力も身分もなく。
かといって素晴らしい着物も脱ぐのは勿体ないから、ただひたすら、元旦から加えられる執拗な攻撃に耐え忍ぶのみ。