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【SS】目が覚めたら…?
第3章 Ⅱ.ナツと……
「そうか!! それはよかった!! 彼女が佐伯くんが必死になって願い続けていた"しーし"…いや、"しーちゃん"さんなんだね?」
「はい、"しーし"改め"しーちゃん"です。本名は静流なんですが」
あたしは苦笑しながら、頭を下げた。
「そうか、静流さん、よろしく。目覚められてよかったね。ああ、新年からなんてめでたいんだろう。そうだ、ちょっとこっちにおいで。12年もの佐伯くんの愛の軌跡を見て行くがいい。温かいお茶とお菓子を用意してあげるから」
連れられたのは、ひとだかりある拝殿横の小道からそれた処にある、小さな木造の建物。
拝殿のような屋根や横木が組まれている。
神主さんは、扉にかかっていた鍵を開けた。
土足禁止らしく、草履を脱いでつるつるの床に上がる。
中は12帖ほどの板張りの間。がらんとしていて、鏡を中心とした祭壇がある。壁には破魔矢やお札……そして、古ぼけた絵馬が沢山飾られていた。
その絵馬は――。
"しーしが目覚めますように"
"しーしがまた笑ってくれますように"
"しーしとお話したいです"
どれを見ても"しーし"ばかり。
そしてそれを書いたのは……"さえきなつ"。
漢字が書けるようになってからは"佐伯奈都"にて。
「神主さん、これ……」
「ああ、君が奉納したものだ。お焚き上げしてしまうと佐伯くんの思いが薄れそうで、だから実は宝庫で保管して、こうして私達もお祈りしていたんだよ。どうか佐伯くんの心が通じますようにって。
本当は特定の人物に肩入れしてはいけないんだろうけれど、あまりにも佐伯くんが健気だったから心動かされてね……」
あたしの復活を願うナツの思いが、渦巻いている空間。
本来すでになくなり空に還るべき絵馬達は、きちんと12年間保管され、そして今、ナツの想いと重なり、ひとつの奇跡となってあたしに返る。
12年の年月を経ても、変わらないものはちゃんとある。
変えたくないと願う者がひとりでもいる限り、その想いは……人を介して必ず伝わっていくものなんだ……。