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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
メガネの奥の漆黒の瞳が、あたしを吸い寄せるかのように揺れる。
長身の黒髪メガネの王子様。
冷ややかな美貌に灼熱を隠し持っていることを、あたしは知っている。
「姫……」
艶やかな声と共に、笑顔で差し出された手。
ああ、あたしはこのひとが好きだ。
このひとじゃなきゃだめだ。
泣きたくなるほど、このひとが好き。
差し出されたその手を取ろうとした時、円舞曲がかかった。
気づけば多くの男女が寄り添い、音楽に身体を乗せていて。
あっと言う間に取り囲まれたあたし達は、この空間から出る術を失った。
ここで曲が終わるまでふたり突っ立っているか、ふたりで踊るか。
ただ、円舞曲が流れている舞台にたっていて踊らないのは、かなり不作法だと軽蔑されてしまう可能性がある。それは恥となる。
「……、サクラ踊れる?」
「踊れるはずないだろう? 今まで俺は勉強しか教えられなかった」
そうだろう。サクラが宴で踊る様は、今まで見たこともないし、想像すらできない。
「だけど出られないよ?」
突っ立ったままは羞恥プレイだ。それは公開処刑にもなりえる。
「……ああ、くそっ。これもハルさんの企みか。……しかたないか、殺されてもいいことを俺はしでかしたんだから」
サクラが笑ってあたしの手を取り、あたしの腰に手を添える。
開き直ったようなその仕草だが、なにも知らない第三者から見れば、きっと優雅に思えるだろう気品に満ちた所作だった。
「踊り方、知らないんでしょう?」
「……今、覚えるところだ」
サクラは目だけでちらちらと、横で踊る男女を盗み見て、本気で踊りを覚えているらしい。……そして即座にものにする。
すごい…。
動揺ひとつ見せず颯爽と構える王子様は、コツを覚えたら素敵なステップであたしをリードする。勉強だけではなく踊りもひとより優れていたらしい。