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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
踊り慣れているあたしがリードされるのが悔しくて、サクラを翻弄させようとしたが、無駄だった。
あたしを熱っぽい目で見つめるサクラに、あたしの方が調子を狂わされて、さらには美しいご婦人の熱視線がサクラに向けられているのを知って動揺し、何度も何度もサクラの足を踏むという大失態。
「ごめんなさい、こんなはずじゃなかったのに……」
「謝らなくてもいい。踏まれようがなにをされようが、姫とこうして踊れるのが僥倖で。……幸せで」
甘さの滲む顔でそう言われて、あたしは真っ赤になって俯いてしまう。
サクラがサクラじゃないみたい。
正装したサクラがあまりにも格好よくて、ドキドキがとまらない。こんなサクラと踊っているのがあたしだと思えば、ご婦人方の嫉妬も気にならなくなる。
速いテンポの円舞曲が終わり、曲がスローなものに変わる。
すっと群集から逃れることも出来るタイミングもあったのだが、ここから出て行こうという気分はなくなっていた。サクラともっとこうして寄り添っていたかったから。サクラがあたしのものだと見せつけたかったから。
サクラもここから出ようとは言わず、あたしの心を見透かしたのか、優しく微笑んでいた。
ゆったりと身体を振る踊りは、男女の距離をゼロにしなければならないが、それが出来ずにいるあたしをくすりと笑い、サクラがあたしを抱きしめるようにして身体をつけて踊り始めた。
あたしの背中にあるサクラの手。あまりに意識しすぎて、肌が火傷しそう。
何度も何度も身体を重ねてもっとすごいことをしてきたはずなのに、サクラの肩に顔を埋めそうな距離感に緊張して。サクラの背中に回した手を、どう置くのが自然なのかとおかしなことを考え、戸惑う。
サクラの前のあたしは、今までの王女ではなく。
ひとりのただの女だということを認識させられた。
それは屈辱ではなく、あたしの中のなにかが目覚め出るような、好奇に満ちて清々しくも心地いいものであった。
サクラとなにか話したい…。
言いたいことはたくさんあるのに、
「サクラ、その服似合ってるね……」
出てくるのは今はどうでも良い言葉。それでも出してしまったからは続けなければならない。