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【SS】目が覚めたら…?
第4章 Ⅲ.??
 

 あんなに優しげな顔で、あんなに愛おしげに女を見つめる波瑠さんを見たことがない。

 たとえあのひとが目覚めていなくても、波瑠さんはあのひとと共に過ごす未来のために、眠れるあのひとに優しく語りかけ、護り続けていくだろう……。……そのために選んだ医者という職業だ。


 あのひとが目覚めてから、波瑠さんは苦しげな表情をも見せた。

 ナツのような……あのひとに愛を乞う、頼りなげな表情も見せて。


 熱視線を送りながら、弟を思い憂えているのだろう。


 それを感じる度に、俺の胸はしくしく痛んだ。


 大切な存在のために想いを堪えようとしている波瑠さんに共鳴したから。

 ……オトコとして同情の類いなのだと、そう思っていた。

 まさか俺もまた、あのひとを介して、波瑠さんと同じ立場にいるとは思わなかったから……。

 

「ナツ。波瑠さんはきっと帰ってくる。お前のために、半分の時間を捧げるだろうさ」


 俺が尊敬する波瑠さんなら、絶対そうだ。

 ナツの立場に俺がいたのなら、きっと波瑠さんは帰ってこない。だがナツがナツである限り、波瑠さんは我が身を犠牲をする。

 それだけナツという存在は波瑠さんにとって絶対的なんだ。そんなナツに譲れないだけ、波瑠さんにとってあのひとの存在も絶対的で。


 羨ましい。

 ナツも、あのひとも。

 そこまで波瑠さんに大事にされていて――。



「淫魔が出なくなったら……しーちゃんには、生涯連れ添えるオトコを、色々選べるよね……」


 食卓に顔を突っ伏しながら、ナツが嘆く。


 淫魔が出なくなったら――。


 あのひとにとっての"特別性"が意味をなさなくなったら……。


 俺もまた、波瑠さんやナツのような、"オトコ"として見て貰えるだろうか……そんなことを考える。


 ……無理だろ。


 あのひとは、淫魔関係なく……波瑠さんにもナツにも惹かれている。

 正反対に見えて似ているふたり。

 強烈な存在感を見せるあのふたりに、全力で愛される悦びを知ってしまったら、俺なんて……。


 俺、なんて――…。
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