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可奈さん
第5章 来訪者
「ぜーんぶ話したわ。
薄汚い大人の世界だよね」

可奈さんは立ち上がって背伸びをした。


「あれから何度も頭の中で繰り返されるの、奥様の言葉の全てが。だから私、このテーブルだけを残して家具を全部取り替えたの、ここに稔さんが居なかった事にしようと思って」

「なぜ、テーブルはそのままなんですか?」

「奥様が座ったから。…忘れてはいけない事だから」


そっけないリビングを見渡す可奈さんの頬に涙が伝っているように見えた。

俺は放って置けなくて、可奈さんをそっと抱き締めた。


「あはは、ありがとう。可哀想に見えた?
酷い女だよ私は」

「……」


ギュッと抱きしめるにはか細くて、柔らかくて折れてしまいそうだった。

ちょうど俺の胸の辺りで声がする。


「拓也さんて背が高いね、あはは、私の顔が胸に埋まるー」


可奈さんは俺の背中に腕を回してはくれなかった。そっと胸を押し「ありがと」と言って離れた。


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