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Could you walk on the water ?
第1章 プロローグ
1台のバスが走り続けている。
道は次第に勾配が険しくなり、対向車とすれ違うのも難しいほどだ。
新緑の季節を告げるまぶしい木々の葉が、細い山道を覆っている。
バスが走り、その葉がうごめく度に、5月の陽光が蒼の空から降り注ぐ。
物語はここから始まる。
俺の物語はここから始まるんだ。もう一度、ここから・・・・・。
相本大介は、胸の中でそうつぶやきながら、車窓から外を見つめた。
生まれ育った故郷の景色だ。
まさか43才になってここに戻ってくるとは、大介は夢想だにしていなかった。
先月までは東京のど真ん中で働いていたのだ。
四国の山奥。
過疎地と形容されてもおかしくない小さな町にまさか今、戻ってくるなんて。
都落ちをするかのような、屈辱的な情念が浮かんでは消えていく。
平日の昼間だ。
JR地方線の終着駅から出発した乗り合いバスに、乗客はまばらだった。
何人かの高齢者が、興味深そうに大介のことを見つめている。
恥ずかしがることなんかない。
俺はここから、必ずやり直すんだ・・・・・。
大介は再びそんな言葉を繰り返し、傍らに座る妻の姿を見つめた。
沈黙を貫いたまま、妻は牝猫のような魅力的な瞳で、外の景色を眺め続けている。
妻は今、こんな不安を抱えているのかもしれない。
木々の葉が織りなすトンネル奥の別世界で、何が私を待っているのだろうか、と。
都会に育った妻が、果たしてこんな田舎の生活に馴染むのだろうか。
妻、沙織の凛としたたずまいを、大介は不確かな予感と共に見つめた。
妻の横顔が、これ以上なく美しく見えた。
道は次第に勾配が険しくなり、対向車とすれ違うのも難しいほどだ。
新緑の季節を告げるまぶしい木々の葉が、細い山道を覆っている。
バスが走り、その葉がうごめく度に、5月の陽光が蒼の空から降り注ぐ。
物語はここから始まる。
俺の物語はここから始まるんだ。もう一度、ここから・・・・・。
相本大介は、胸の中でそうつぶやきながら、車窓から外を見つめた。
生まれ育った故郷の景色だ。
まさか43才になってここに戻ってくるとは、大介は夢想だにしていなかった。
先月までは東京のど真ん中で働いていたのだ。
四国の山奥。
過疎地と形容されてもおかしくない小さな町にまさか今、戻ってくるなんて。
都落ちをするかのような、屈辱的な情念が浮かんでは消えていく。
平日の昼間だ。
JR地方線の終着駅から出発した乗り合いバスに、乗客はまばらだった。
何人かの高齢者が、興味深そうに大介のことを見つめている。
恥ずかしがることなんかない。
俺はここから、必ずやり直すんだ・・・・・。
大介は再びそんな言葉を繰り返し、傍らに座る妻の姿を見つめた。
沈黙を貫いたまま、妻は牝猫のような魅力的な瞳で、外の景色を眺め続けている。
妻は今、こんな不安を抱えているのかもしれない。
木々の葉が織りなすトンネル奥の別世界で、何が私を待っているのだろうか、と。
都会に育った妻が、果たしてこんな田舎の生活に馴染むのだろうか。
妻、沙織の凛としたたずまいを、大介は不確かな予感と共に見つめた。
妻の横顔が、これ以上なく美しく見えた。