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Could you walk on the water ?
第9章 レイプ
橋口玲佳が、そのカフェで働き始めたのはまだ先月である。

山あいのこの田舎町で育った玲佳は、関西にある短大に進み、そのまま在阪アパレル企業に就職した。

だが、セクハラまがいのトラブルに巻き込まれたこともあり、3年で退職、そして故郷に戻ってきた。

しばらくは実家でふらふらとしていたが、そろそろ何か働こうかと考え始めたときに見つけたのが、このカフェでの仕事だった。

東京でリストラされたという店主は、穏やかで好感が持てる男性だった。

24歳になる玲佳にとって、店主は20歳程度年上であったが、会話も普通にできる、気の置けない性格の持ち主であった。

「まだ開業したばかりでね。正直いつまで続くかわからないんだけど」

「私、子供のころからカフェをやりたかったんです。あくまでも願望ですけどね」

「現実はそんなに甘くないよ、玲佳ちゃん」

「わかってます。まずは夏の観光シーズンに向けて頑張りましょうよ、店長」

相本大介は、初めて採用するその若い女性スタッフに、純粋な頃の自分を思い出さずにはいられなかった。

今、俺は、妻の秘められた姿に、翻弄されている。

いったいどこでこんな迷路に導かれてしまったのか。

堀内が全ての発端なのだ・・・・・。

あの男さえいなければ・・・・・・・・。

カフェに集中できない自分への言い訳とするように、大介は女性スタッフ、橋口玲佳を採用した。

厨房から接客対応、ネットを通じたPR活動。

玲佳は大介をあらゆる面から助け、彼女が働き始めたころを境に、客足は少しずつ上向き始めていた。

そんな8月が終わろうとしている頃。

それは、大介がトンネル工事現場の労働者寮に潜入した夜だった。

妻、沙織が、白石に浴室で陵辱行為を与えられた、あの夜のことだ。

玲佳は夕刻以降一人で店を切り盛りし、何とか営業を終えることができた。

「ふー。今日も終わったわ。夏休みも終わるけど、お客さんはもっと増えそうね」

午後9時。

閉店の看板を出し、玲佳は店のドアを施錠した。

周囲に住宅はない。

店は山間部の見晴らしのいい高台にあった。

玲佳がバイクの轟音に気付いたのは、洗い物を終えようとしているときだった。
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