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誘淫接続
第2章 第十の接続

(2)

 声の主は田村翠――教室の女性アルバイトスタッフだった。
 翠は小柄で、おかっぱ頭のそばかすの多い芸大生だ。
 そのおかっぱ頭も、芸大生にありがちなファッションへのこだわりかと思えば、本人曰くそうではないらしい。

 翠の目はいつも半開きで、四六時中ぼんやりしているように見える。たまに驚いた時や喜んだ時などはその目が開くのだが、ぱっちりとした丸い瞳で、普段からそうすればそれなりに可愛く見えるのに、と麻琴は思っていた。

 顔はすっぴんのままで、簡単な化粧さえしているのを見たことがない。
 翠もまた、教室では汚れてもいいようにパーカーとジーンズ、エプロンといういで立ちだ。
 その翠はたくさん並んでいるプラバケツの前で、土灰釉という釉薬を作るための原料の粉が入った袋を抱えたまま、呆然としている。

 釉薬とは、陶器の表面にガラス質のコーティングをするために、最後の焼成前に塗る液状の薬品のことであり、さまざまな色のもの、質感のものがある。
 釉薬はスタンダードなものを二十種類程度、受講生に分かりやすいようその種類ごとにバケツに分けて入っており、釉薬の名前を書いた紙が貼られている。

 麻琴は何も言わず翠のもとへ歩み寄った。
 状況を見れば、だいたい何が起こったか想像がついた。
 つぎ足そうとして、間違って別の釉薬のバケツに粉を入れたのだろう。

 翠は泣きそうになっている半開きの目を麻琴に向けた。
 「水野さん、その、あの、ごごごめんなさい、ごめんなさい……」
 いつものおどおどしたしゃべり方も、より一層ひどくなっている。
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