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誘淫接続
第5章 接近

(2)

 麻琴の頭は混乱の最中にあった。
 服や顔が濡れていることなど、全く意識になかった。

 教室にいる全員の注目を浴びながら、動くはずのない貞操帯に不意に責められ、身体の内側を、奥底の牝の芯を揺さぶられるだけでも十分混乱するのに――。
 ここに『ご主人様』がいるかも知れないのだ。

 いや、いる。
 ここに、いるのだ。

 人前でうろたえることなどほとんどない麻琴の歯が、かすかにかちかち震えている。
 「水野くん、無理しないで奥で休むか、帰るかした方がいいんじゃないですか?」
 菅原は作務衣に掛かった水を両手で払いながら言った。

 麻琴がおそるおそる顔を上げる。
 取り囲んでいる皆の顔は、驚きの色を浮かべつつ麻琴を気づかうような表情だった。
 「そうですよ、今日はずっと調子悪そうだったし」「無理しない方がいいですよ」「先生もいらっしゃるから」皆が口々に言う。
 麻琴が転んだ本当の理由には気づかれていないようだ。
 全裸にでもされなければ、分かるはずはないのだ。

 麻琴はなんとか立ち上がり、ずれた眼鏡を直して言った。
 「……本当に、みなさんすみません……」
 翠がたくさんのタオルを持ってきて、水が掛かってしまった受講生たちに配って回っている。
 「田村さん……ごめんなさいね」
 「い、いえ……」
 隆一も、雑巾で片っ端から手早く床を拭いている。

 やがて菅原が立ち上がり、集まった全員に言った。
 「ここの後片付けしましてね、準備できたらあらためて実演やりますから、みなさん一旦戻ってください」
 菅原の言葉に、受講生たちはめいめいのテーブルに散らばっていった。
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