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誘淫接続
第5章 接近

(3)
 
 コンコン――
 コンコンコン――
 ――そんな……
 コンコンコンコン――
 ――そんな……!
 コンコンコンコンコンコンコンコン――
 ――そんなそんなそんなそんなそんなそんな……!!

 麻琴の身体は石のように硬直し、全く動かせなくなっていた。
 「開けろ、マキ」
 『ご主人様』の声が個室の中に入ってきて響き渡る。

 コン!コン!コン!コン!コン!コン!コン!コン!――
 「早く開けるんだ……いつものように素直に俺に従えばいいんだ……いつだって俺の命令をちゃんと聞けるいい子じゃないかお前は……」
 低い調子で放たれる翠の声が、麻琴の耳から入り脳を激しく揺さぶる。
 麻琴の全身はいつしかガタガタと震えていた。

 「開けろ!!」
 ドンッ!!――
 扉が激しい音を立てて揺れる。
 麻琴の手が扉の鍵を解く。
 麻琴の意志に関係なく、手が勝手に動いているかのようだった。
 ゆっくり扉が内側に開く。

 麻琴の目の前には、スマホを手にした翠が立っていた。
 スマホは麻琴のものではない。翠のものだ。
 目の前にいるのは確かに見慣れた翠の姿だ。おかっぱ頭でそばかすの多い翠の顔だ。

 しかし――
 その表情は、まるで別人のように鋭い。
 目は、はっきりと大きく開かれている。
 そのくせ、どこか光を置き忘れてきたような、深い深い闇をたたえた真っ黒な瞳をしていた。

 「……どうして今日は聞き分けが悪いんだ? マキ?」
 普段の翠とは声色も抑揚も全く違うが、それは『ご主人様』の話し方をまねているからではない。
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