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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第2章 『 シフォンケーキ 』

朝の4時半。
それが祖父母の起床時間だった。
小学6年生にすれば、まだ「夜」だ。
起き出す祖父母の立てる物音には聞こえないふりをし、私は二度寝した。
みそ汁の煮え花。
玉子焼きのにおい。
そろそろ朝ごはんかな……と、わたしは目を覚ます。
祖父母の朝ごはんは、いつも同じだった。
炊きたてのごはん、みそ汁、玉子焼き、めざしやイワシの一夜干し……。
トーストに目玉焼き、コーンスープの朝ごはんに馴染んでいたわたしは、最初のうちは嫌でしかたなかった。
でも、みそ汁の香りで目覚めるのに慣れた頃、いわゆる和の朝食にも慣れていた。
朝食の後、祖父は市から借りている畑へ出かけていくのだが、本日2回目のようだ。
わたしが二度寝を決め込んでいるときに、畑に行っているようだった。
祖母は、洗濯を干し始める。これも、わたしが寝ている間に洗っているようだ。
わたしは、洗濯を干すのを手伝うときもあれば、宿題を始めることもあった。
祖父母は、エアコンをつけない。
わたしの物心がついた時からある、カラカラとプラスチックの擦れる音を立てる扇風機をつける。
生暖かい風が、髪を撫でていく。
時々、暑さに無性に腹立たしくなって、くび振り運転を固定し、ダイヤルを強風に変えた。
「あ~つ~い。」
声が震えるのがおもしろくて、扇風機に近づいてしゃべった。
風を一心に受け、一瞬の涼しさを手に入れる。
あまりに暑いときだけ、祖母が冷凍庫からアイスキャンディーやちゅうちゅうを出してくれた。
ちゅうちゅう……あれの正式名称はなんだろう。
真ん中でパキッと割って、右手と左手に一つずつ持ち、交互に割れ目からちゅうちゅうと冷たい液体と固まりを味わうけれど、名前……知らないなぁ。
ちゅうちゅうっと吸うから、ちゅうちゅうと勝手に名付けていたけれど……。
扇風機とアイスキャンディーで冷えたところで、わたしは、また宿題に取り組む。

