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唇に媚薬
第9章 ヤキモチ王子

蓮と同時に振り返ると
ガタッと音を立てて、佐伯が立ち上がった。


「あ、の……っ」

「………?」


スカートをぎゅっと掴んで、肩を震わせて
なにやら口の中でモゴモゴ言っている。


「なに?」

「い、いえ……」

「なんだよ言えよ」

「……き、金曜日」


顔を真っ赤にした佐伯が、消えそうな声を絞り出した。


「先週の金曜日、会社に戻られて
忘れ物……大丈夫でしたか?」

「忘れ物?」

「……か、帰り道で瀬名さん引き返されて……」

「………!」


〜〜ゲッ!
いっけね!
やべぇ!


「なんの話?」


そう言って蓮が首を捻る横で、サァッと血の気が引いてくる。

……忘れ物っつーのは、つまり
エントランスのモニュメントから覗いてた蘭だったわけで
それより何より

……俺、なんで忘れてたわけ?


「……悪い。
週明けの今日聞くって、俺からお前に……」

「い、いいんです!」

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