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唇に媚薬
第11章 純真なカノジョ
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葵がアメリカに発った翌日の水曜、夕方の6時。


「先輩。今からおつかい頼んでもいいっすか?」


コーヒーを淹れ直して、さぁこれから残業!と意気込む私の隣りで
同僚の姫宮 蓮(ひめみや れん)が、ふいに声を掛けてきた。


「○○PLUS新作のアウター、なぜか銀座店に誤配送されてやがって」

「……はい?」

「そっこー取りに行きたいんだけど
俺、7時から会議だから抜け出せないんだ」


~~はいはい、出た出た!

ここまでの彼の台詞には、ツッコミどころ満載。
反論する意見も多数あり。


「姫宮さん、あのですね」


電話の受話器を置いた彼の方へ、グルッと椅子を回して
パソコンから手を離して、軽く咳払いをする。


「まず、日本語の使い方間違ってますから!
大体 “ おつかい ” って……」

「お願いします」

「………!」


ふわりとウェーブのかかった、茶色く光る前髪を揺らして
吸い込まれそうな大きな瞳が、ふっと弧を描いた。


「頼めるの、先輩しかいないんだよね」

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