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唇に媚薬
第14章 涙の先に
ネクタイを緩めながら周りを見渡しても、フロア内にそれらしき姿が見えない。
「佐伯さん……そういえば戻って来てないですね」
パソコンを涙目で見つめたまま、後輩が思い出したように口を開く。
「ラウンジに行くって言ってました。
出てってから、1時間くらい経ってるかなぁ」
「どこ?」
「下です。 15階のカフェの方」
本社の中には休憩スペースがいくつもある。
15Fは喫煙所と併設してるから、俺は煙草と携帯を持って立ち上がった。
「ちょっと外す。
誰かに呼ばれたら携帯鳴らして」
「はい、分かりました……あ、そうだ瀬名さん」
フロアの出口に向かうタイミングで呼び止められる。
「鈴木さんにも、戻ってきてくださいって伝えてもらえますか?」
「……あ? 蓮?」
「はい、携帯机に置きっぱなしなんですよ。
さっきからめっちゃ振動してて」
振り返ると、後輩は眉を寄せて溜息をついた。
「佐伯さんと2人して、帰ってこないんです」