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唇に媚薬
第14章 涙の先に

「……言えねぇなら、別に構わないけど」


溜息を漏らして、スーツのポケットから携帯を取り出す。

……帰国したことは、真っ先に伝えたけど
さすがにこの時間はまだ仕事してるよな。

呼び起こした画面に、新着メールの表示は無かった。


「佐伯、俺に話したいことってなに?」

「………!」

「最初に言われた日から、大分遅くなっちまったけど
それを聞くために、直帰せずにここに来たんだ」

「……あ…」


項垂れた頭を起こした、佐伯の瞳は潤んでいる。

唐突に話を切り替えたんだから無理もない。
わざわざ来てやった的な発言、自分でもウゼェと思う。


……分かってる。

蓮の言い回しからして、その涙に俺が関わっていそうだから
本来であれば、ちゃんとその理由を聞くべきなんだ。


だけど


「言って。ちゃんと聞くから」


……悪い、佐伯。


今の言葉に嘘は無いけど

俺の頭の中は、あいつの笑顔で埋め尽くされている。



……蘭に逢いてぇ……


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