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唇に媚薬
第14章 涙の先に

「……佐伯!」


歩き始めた背中に向けて、立ち上がって呼び止めると


「……瀬名さん。
ひとつだけ、伝言お願いできますか?」


数メートル先で振り返った佐伯が、目を細めて続けた。


「 “ ごめんなさい ” 」

「……!」

「彼女に伝えてしまった過ちを、どうか許してください」

「………」

「……信じてくれないかもしれないけど
瀬名さんの想いを聞いて
今は、心から2人の幸せを願っています」


……過ち?

言葉にならない俺に、佐伯はもう一度頭を下げた。


「私、こう見えてもカンが良い方なので。
幼なじみって言われた瞬間に、分かったんです」

「………?」

「本当は、直接謝らなきゃいけないけど
自分の立場を弁えて……私も前に進みます」


いつものように
両手を胸の前で握る、大袈裟なポーズを披露して


「お疲れ様でした。
……また、明日」


佐伯は笑顔でフロアの入口へと足を向けた。

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