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唇に媚薬
第3章 強情プリンセス

「逢えるかって俺からけしかけて
せっかく来てもらったところで、悪いんだけど」


私のバッグをするっと肩から外して、自分のスーツケースの上に乗せると
葵は革靴をキュッと鳴らして歩き始めた。


「家に直帰していい?」

「……えっ!?」

「3日寝てねぇんだ。
フライト中も、報告書まとめてて」

「………!」


慌てて追いかけて、その横顔を改めて見ると
……確かに、鋭い目の下にクマができている。
って、今3日って言った!?


「う、嘘でしょ?
海外出張って、そんな激務なの……」

「いつものことだ。
ただ、今回は動く額がデカいせいで、最大限に神経尖らせてたから」

「………っ」

「流石に疲れた」


……葵と逢う時、私に隠れてビタミン剤を飲んでるのは見たことがある。
でも、今思えば
あれはビタミン剤より、もっと強いものなのかもしれない。

……愚痴を言うのは、いつも私だけ。

私、幼なじみのくせに
葵のこと、なんにも見えてないんだな……

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