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唇に媚薬
第1章 理想と現実
「すげぇな」
口元に手を当ててから、葵が私に憐れみの目を向ける。
「その歳にして、未だ白馬の王子様を待ってるのか」
「……そう、なのかな。
とにかく人とは違う出逢い方をして、煌めいた世界で生きたいの」
「……煌めいた世界?」
「芸能人と秘密の恋をしたり、現実とかき離れた環境が欲しい。
平凡な日常から、飛び出したいのよ」
BARのマスターにカードを出して、葵は無言で会計を済ませた。
……痛い発言してるって分かってる。
でも、本音なの。
だからこんなこと、私を理解してくれている葵にしか言えない。
「……葵」
イスから立ち上がった葵を、じっと見つめた。
「今の私の理想はいいとして……
ありがとう」
「………?」
「ありがとう。
一緒に、飲んでくれて嬉しかった」