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唇に媚薬
第1章 理想と現実
同じ会社に、彼女がいるのは知っている。
それでも幼なじみの私の愚痴を聞くだけの名目で、こうして飲みに付き合ってくれる葵。
……口悪いくせに、根は優しいんだよね。
男女問わず友人が多いのも頷ける。
「…………」
高そうなスーツの上にブラックのトレンチコートを羽織って、同色の傘を持つと
葵は、その深い瞳で私を見返してきた。
「……蘭」
「なに?」
「……いや、いい」
ふっと視線を逸らして、葵はエレベーターに向かって歩き始める。
なによ、人が素直にお礼を告げたのに。
……やっぱり迷惑なんだろうか。
結婚して付き合いが悪くなる友人達が増えてるから、葵の存在は貴重なんだけどな。
そんなことを思いながら、折り畳み傘の入ったバッグを持ってその後に続いた。