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唇に媚薬
第1章 理想と現実
「あ、少し弱まったね」
エレベーターを降りてビルの外に出ると
BARに来た時には激しかった雨が、霧雨に変わっていた。
夜の11時。
2月の寒空に白い息が舞う。
「出さなくていい」
「……え?」
「駅まで近いし。俺のに入れ」
バッグに手を入れた私を制止して、葵が自分の傘を開いた。
返事を待たずに歩き出したから、慌ててその隣りに並ぶ。
私の右肩が葵の左腕に触れると
葵は私の歩幅に合わせてくれた。
「相合傘だね、葵♪」
一歩間違えれば引いてしまう動作でも、いちいち乙女心をくすぐられる。
イケメンの特権だな。
「……反応が、ガキ」
「ふふっ♡ ピュアって言って。
ねぇ、そんなに私の方に傾けたら葵が濡れちゃうよ」
「危ねぇな、まっすぐ歩けよ。
酔ってんのか?」
「酔ってない。でもフワフワする」
「酔ってるっつーんだよボケ」