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万華鏡
第1章 日本酒と愛しい貴方と
季節は春めいてきて。ひと雨、ひと雨‥春が近づいてきていて。



なんだか心が浮き立つような気がする夜だった。




ーー 今日は飲んじゃおうかな。




主人は今日も接待で遅くなる。




ここ連日続く接待。
この不景気の中で余程大切なお得意様なのだろう。




毎日スーツに、お酒の臭いが染み付いて。
その大変さと、主人の体を心配しない訳では無いけれど ー‥。



独りぼっちで食べるご飯は味気なくて、簡単に済ますことが多かった。




そう言えば、先日実家に遊びにいった時、実家の近くの酒蔵のお酒をお土産に持たされたのだった。




季節は春めいているのに、一人きりは寂しくて。



ー‥ 酔ったら寂しくなくなるかしら‥。



余りお酒はいける口では無いけれど。



まだ少し肌寒いけれど、春の気配が躯にまとわりついて、それが乃里子の心を少しだけ大胆にしていた。



冷蔵庫の中を見繕って、お酒のあてを準備する。



いぶりかっこをスライスして、クリームチーズを乗せたもの。



油揚げを半分に切り、袋状に開いて、ピザ用チーズを一掴みと、納豆と小口切りにしたネギを付属のタレで和えたものを油揚げに詰めて、フライパンで焦げ目がつく程度に焼いたもの。




皿に大葉を敷いて、大根おろしとジャコを、盛り付けぽん酢を掛けたもの。



料理とは呼べない簡単な品を手早く準備した。




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