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want to be ...
第9章 さよなら
絶対…絶対に聞こえてなかったはずなのに。
見上げたような素振りも見せなかったし、あたし達がいることなんて分からないはずなのに。
先生が足を止めて、こっちを見上げたんだ。
そして次の先生の行動に、あたしも…もちろん雫も、驚いて目を見開いた。
先生が優しく、少し悲しそうに微笑んだから。
そして口パクで…
「愛してる」
間違いなく、雫に向けて放っただろう言葉。
「…っ、ふ、うぅっ…まただ…!
また嫌いになれなくなっちゃう…!」
床に泣き崩れる雫の背中を優しく撫でながら、歩いていく先生を見つめる。
少し前にも、すれ違い際に手をぎゅっと握られたらしい雫。
冷たく突き放すのに、時々与えられる甘い瞬間。
…先生、本当は雫のこと愛してるんだと思う。
西野先生と付き合ってるのだって…、きっと何か理由があるんだと思う。
あたしはそう思ってるけど、今の雫に伝えてもきっとまともに心に届かないだろう。
そう思って、何も言わずただ、泣きじゃくる雫の背中を優しく撫で続けた。