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第16章 熱情

抱き合っているこの事実を知られることは無いかもしれない。
――まさか、片桐さんには話さないと…思う。


頭では解っている。
これは――裏切りなんじゃないかって。
真くんから離れなきゃ―――そう思うのに…。


真くんが私を離さないから。
この強い力から逃れられないから。


そう言って自分に言い訳するのは簡単で。
実際…そうゆう風にして私は誰も裏切っていないって思えたなら楽だろうな。って…そう思うけれど。


――でも…違うんだ。



私がこの腕から逃れたくないのだ。

真くんと二人でいるこの時間を、
片桐さんに秘密にしておきたいのだ。



このとき…私は気づくべきだった。
真くんに対するこの気持ちの名前に――…。


でも――私は。


自分の気持ちに向き合う余裕はまだ無かった。
その甘い疼きのもつ意味を解らないでいた。



真くんに抱き締められたら胸の中の蝶が羽ばたきはじめる。
苦しげな真くんを抱き締めたくなる。
こんなに近づいているのに…もっと側に―――。