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BLACK WOLF
第8章 醒めない悪夢

「俺は何も聞かない。舞が話したくないなら話さなくていい」
ハルちゃん…。
キュッと蛇口を捻り水を止めた。
けど、ハルちゃんはそのまま、振り返ることなく
「でも、これだけは覚えとけ。俺は本気で心配してた。携帯も繋がらなくて、アパートも解約されてて、本気で…夜も眠れねぇぐらい心配してた…」
多分、聞きたいことはいっぱいあるよね。
アパートを解約して、その後どこでどうしてたとか、何でこんなボロボロ状態でハルちゃんの元に来たのかとか
それでも、何も聞かないでいてくれる。
「心配かけてごめんね…」
「本当だよ。心配ばっかりかけやがって…」
ハルちゃんは私に背中を向けたままだ。
ハルちゃんの声、何と無く震えてる。
私の知らない間に、ハルちゃんはずっと私の心配をしてくれてたんだ。
こんなにも私を心配してくれてる人がいる。
鼻の奥にツンッと込み上げる涙を、私は必死に我慢した。
体が暖まった今、やっと意識や感情がハッキリして来た。
私は人形なんかじゃなくて、人間だ。
風邪もひくし、涙も流す、血の通った人間。
「それで、お前これからどうすんの?行くとこあんの?」
「え?あ…うん…まぁ」
洗い物を終えたハルちゃんはコーヒーを片手にベッドの直ぐそばに腰を下ろし私に話しかけた来た。
本当は行くところなんかない。
でも、これ以上ハルちゃんに変な心配をかけたくない。
頼れる親戚も身内もいない。
かといって、黒埼の元へ帰るなんて絶対嫌だ。
でも、貴重品類は黒埼の家に置きっぱなしだし、当面のお金すらないし部屋を借る手段もない。
でも…
こんな格好でこんな時間にいきなり尋ねて来て散々迷惑かけて、これ以上ハルちゃんの気を揉ませたくない。

