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BLACK WOLF
第11章 満月の夜の狼
「あーぁ、風呂に入る前でよかったな。ずいぶん汚しちまったけど」
頭部をパッと話離した瞬間、私の体は後ろへと倒れたが洗面台にもたれかかるようにして転倒は防げた。
そのまま動けなくなってしまってるが…。
「ハァ、ハァ…あっ、あっ」
少しの振動ででも体の奥が疼く。
「お前は本当にいい女だ」
私の目線と同じ位置にまでしゃがみこむ黒埼さん。
虚ろな私の目を見ながら…、私は目線は宙を泳いだままだが私の目や体や全てを見ながら…
「本当に、腹が立つぐらいいい女だよ。それから誰にも触れさせたくないぐらい美しい」
ぼんやりする思考と聴覚で黒埼さんの声を聞きそれを理解しようとした。
いい女?
美しい?
どこが?
こんなみっともなく情けない姿を晒して、何が美しいというの?
獣のような悲鳴を上げて、懇願するように大嫌いな男の名前を叫んで…。
「うっ、う…」
「舞?」
仕方がないとは言え、こんな奴の名前を…。
ハルちゃんじゃなく、こんな男の名前を叫んでしまった。
それがこんなにも悲しくて悔しい。
「ハ、ハルちゃ…ぐすっ」
「━━━━━━っ」
聞こえないくらいの、今にも消え入りそうな声で幼馴染みの名前を呟いた。
さっきの叫び声よりもずっとずっと愛しくて大切な名前を。
黒埼さんの名前を叫んだことなどなかったことにするかのように。