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BLACK WOLF
第15章 耳をすませ、爪を研いで
「お、お嬢様…どうして……」
私の顔を見て酒井さんはハラハラと慌てたような顔をしていた。
突然、酒井さんに挨拶もしないで、何もわからないままこの家を出たのだから無理もない。
そんな私が今また突然に尋ねて来たのだから。
こーして酒井さんに"お嬢様"なんて呼ばれるのは正直言って今も慣れない。
「いろいろ…、本当にいろいろあって…」
ここに来るのだって本当は迷っていた。
怖かった。
何もかもがなくなり崩れてしまいそうだったから。
「ところで、黒埼さんは?」
「あの…あ……」
何かを言いにくそうに、酒井さんはすぐにドアを閉め小さな声で私に話し出した。
「お嬢様が去られてから旦那様はすっかり荒れてしまって…。以前のような元気もなくて…」
私がいなくなってから黒埼さんが?
「ここ最近、アルコールの量も増えましたし、お仕事の方にも支障が…」
「………………。」
大事な玩具を手放したから?
好きなときにからかえるペットがいなくなったから?
「私はもう帰る時間ですし、旦那様はもうすぐL.Aに引っ越されます。ですが、後のこと心配で…」
「━━━━黒埼さんは中にいるんですね?」
黒埼さんはもうすぐL.Aに行ってしまう。
その前に、黒埼さんが行ってしまう前に全てを知りたかった。
酒井さんと会うのもこれが最後になるかも知れないけど、どうやら間に合ったみたいだ。
黒埼さんが日本を離れる前に
誰の口からじゃなく、黒埼さんの口から真実を知りたい。