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BLACK WOLF
第15章 耳をすませ、爪を研いで
行為を終えソファでぐったりしていると、黒埼さんは早々に自分の衣類を正し、この真っ暗な部屋を出て行こうとしている。
「黒埼さん、どこに…?」
「……隣の書斎。もうすぐ引っ越し業者が来るからいろいろ話すこともあるし」
私の方を見ず背中を向けたままで、冷たい声だけが部屋に響いている。
…そうだ。
黒埼さんはもうすぐL.Aに行ってしまう。
黒埼さんが発つ前に真実を聞こうとしてここに来たんだ。
予定も聞かずにいきなり押し入って悪かったかな…。
「L.Aにはいつ…」
「明後日。朝一のフライトで発つ」
明後日……。
ここにいたときは1日1日がとてつもなく長く感じたけど、今は何故か"時間がない"とさえ思ってしまう。
それだけ、私にとっては嫌な場所だったのに。
「そんな格好じゃ帰れねぇだろ?風呂使え。服もお前の部屋にまだ残してある」
「あ…ありがとう…ございます…」
髪はボサボサだし、メイクもボロボロだし、服もびしょ濡れで、こんな格好で帰ったら叔母さんが驚く。
アポなしで急に来た分際でお風呂まで借りるのは申し訳ないが今はそんなこと言ってられないし
「それと、2度とここには来るな。俺の前に現れるな」
……そんなの、わかりきったことだ。
どのみち黒埼さんはいなくなる。
遠い遠い、2度と会えないくらい遠い所に行ってしまう。
もう、会えない。
言葉を無くす私に背中を向けたままの黒埼さんだが、その背中が何故か小さく見えた。
「お前を前にしたら理性も常識もなくなる。お前の父親や母親の事を忘れてただの雄になっちまう…っ」
「あ…あの…」
「お前はもう自由だ。好きに生きろ」
バタン…
そう言い残すと黒埼さんは部屋を出て行ってしまった。