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BLACK WOLF
第16章 悲しき遠吠え
最後。
この狼の姿を見るのは最後なの…?
寂しげな目を見せる狼。
私を拐い、弄んだあの…。
「時間だ。じゃあな…」
黒埼さん。
黒埼さん…っ。
振り返り立ち去ろうとする背中が小さく見えた。
「私も連れて行ってっ!!」
━━━━━━━━え?
振り返ると、目に涙を溜めながら必死に叫ぶ姿があった。
日の光に照らされたその姿はあの小さかった面影はない。
ただの、1人の女がそこにいるだけだった。
「お前…」
「これは…、私の意思です…っ!」
嗚呼。
俺は本当に、泣かせてばかりだ。
誰にも触らせたくなくて、閉じ込めてしまうくらいに愛してる女なのに。
「あの幼馴染みは…?」
「ハルちゃんにはちゃんと言いました…。バイバイって…」
「……バカな女だな。せっかく戻れたものを」
これは、きっと夢だ。
嫉妬と愛しさが見せてる幸せすぎる白昼夢だ。
「知りたくなかった…。何も知らないままだったらよかった…。何も知らないままだったら私はハルちゃんと…っ」
『まもなく搭乗手続きを━━━━━━』
アナウンス。
飛行機のエンジン音。
周りの雑踏。
全てがシャットダウン。
それよりも、今自分の腕の中に飛び込んできたこの小さな温もり。
それだけしか感じなかった。
その他の事など、もうどうでもよかった。
「黒埼さんが好きです…」
「…………舞」
どんなに願っても聞く事は出来ないと思ってたその言葉。
どれだけ渇望したかわからないそのフレーズ。
その一言だけで、何もかもが満たされた。
「私も一緒に行きます」
「……もうキャンセルは効かない。嫌がっても連れて行くからな」