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BLACK WOLF
第6章 狼は爪を研ぎながら
「ですが、私からすれば"お嬢様"ですよ」

…なるほどね。

ハウスキーパーさんからすれば、この家に住んでるものはみんなそういう呼び名なんだ。

お嬢様 なんて初めて言われた。

言われ慣れしてないその呼び名が変にむず痒い。

「酒井さんは食べないんですか…?」

「そんな…!お嬢様と同じテーブルでなんてとても…」

…そーいう世界なんだ、ここは。


変なの。

食事はみんなで食べた方が美味しいのに。


私よりずっと年上の女性は立ち仕事しながら、私はその横で優雅に晩ごはん。

慣れない環境にまだ戸惑いを隠せない。

すると

「旦那様もよく同じ事を仰って下さいます。"こっちに来て一緒に食事をどうぞ"って。優しい旦那様でお嬢様は幸せですね」



…は?

あの男が、優しい…?




酒井さんのその台詞に耳を疑った。

あの男が優しい?

私は幸せ?

何が?どこが?

あの男が私に何をしたか…っ!

いきなり私を拐い、ムリヤリ奪われ、住むところも大学も仕事も奪って、こんなところに監禁するかのように閉じ込めて…っ!

私は何もかもを奪われたんだ、と怒鳴りたくなったが酒井さんに悪気はない。

多分酒井さんはあの男の本性を知らなくて、私が何者かで、どうしてここにいるのかさえ知らないんだから。










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