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あの店に彼がいるそうです
第8章 一体なんの冗談だ
忍がキャッスルに入った頃、シエラでも新入り挨拶が行われていた。
「あのな……一応スカウトは俺の仕事なんだぞ」
「瑞希の知り合いだし、面識あるからいいかなって」
篠田が事務室の真ん中で眉間を押さえる。
意気揚々と胸を張る新人の前で。
「二十二歳、拓といいます。三度の飯より野菜を語るのが好きです。あ、もちろん料理は得意ですけど特に茹でる系のがドレッシングと相性も好いし好きなんですよねぇ。酒はロゼとビールに慣れていますが、洋酒は旬のものは大抵試している感じです。それから」
「おいおい。いきなり語りだすな」
扉にもたれた類沢は黙って成り行きを見ている。
篠田はその眼を見てすぐに悟った。
楽しんでいるな、雅。
饒舌で、元気な若者。
頼まれてもいない自己紹介で好きなものが次々飛び出す明るさ。
シエラにはいない空気の人間だ。
「ったく……明日は集計だってのに今日来なくてもいいだろう」
「今、オレ呼んだんですか」
「違う」
駄目だ。
顔が緩む。
相手のテンポの崩し方が絶妙だ。
「ね。なかなかいないタイプでしょ」
「本当にな」
「褒められているんすか、オレ」
「そう受け取っておけ」
初日から働く気満々なのか、スーツを着てきた拓。
だが、どう見ても就活用のビジネススーツ。
店から余りに浮いている。
「なんでこれで来させた……」
「面白いから」
笑い交じりに類沢が答える。
当の本人は紅のシャツと漆黒のスーツに身を包んでいる。
金の混ざった光沢が気に入っていると聞いた。
これに並べられては拓の恰好は笑えてくる。
「とりあえず今日は貸してやるから着替えろ。そうだな……出迎えと紅乃木のヘルプにつかせてやれ。体験ホストだ、気軽くな」
ぱあっと笑顔になった拓が頷く。
それから類沢を振り向き、大袈裟に親指を立てた。
類沢は目を細めて手招きをする。
「慣れるまで大変だろうけど、頑張ってね。キャッスルの忍に勝つんでしょ?」
「ええ、ぜひ!」
「全く……親友同士が他の店入って競争なんて聞いたことないな」
「あ、チーフ。違います。オレと忍は恋人です」
キッと言い返す顔を手で払う。
「いいから、早く行け。連れて行け」
バタンと閉まったドアを見つめる。
名義屋の影に歌舞伎町がざわつく中で、ああいう存在は貴重かもしれないな。
「あのな……一応スカウトは俺の仕事なんだぞ」
「瑞希の知り合いだし、面識あるからいいかなって」
篠田が事務室の真ん中で眉間を押さえる。
意気揚々と胸を張る新人の前で。
「二十二歳、拓といいます。三度の飯より野菜を語るのが好きです。あ、もちろん料理は得意ですけど特に茹でる系のがドレッシングと相性も好いし好きなんですよねぇ。酒はロゼとビールに慣れていますが、洋酒は旬のものは大抵試している感じです。それから」
「おいおい。いきなり語りだすな」
扉にもたれた類沢は黙って成り行きを見ている。
篠田はその眼を見てすぐに悟った。
楽しんでいるな、雅。
饒舌で、元気な若者。
頼まれてもいない自己紹介で好きなものが次々飛び出す明るさ。
シエラにはいない空気の人間だ。
「ったく……明日は集計だってのに今日来なくてもいいだろう」
「今、オレ呼んだんですか」
「違う」
駄目だ。
顔が緩む。
相手のテンポの崩し方が絶妙だ。
「ね。なかなかいないタイプでしょ」
「本当にな」
「褒められているんすか、オレ」
「そう受け取っておけ」
初日から働く気満々なのか、スーツを着てきた拓。
だが、どう見ても就活用のビジネススーツ。
店から余りに浮いている。
「なんでこれで来させた……」
「面白いから」
笑い交じりに類沢が答える。
当の本人は紅のシャツと漆黒のスーツに身を包んでいる。
金の混ざった光沢が気に入っていると聞いた。
これに並べられては拓の恰好は笑えてくる。
「とりあえず今日は貸してやるから着替えろ。そうだな……出迎えと紅乃木のヘルプにつかせてやれ。体験ホストだ、気軽くな」
ぱあっと笑顔になった拓が頷く。
それから類沢を振り向き、大袈裟に親指を立てた。
類沢は目を細めて手招きをする。
「慣れるまで大変だろうけど、頑張ってね。キャッスルの忍に勝つんでしょ?」
「ええ、ぜひ!」
「全く……親友同士が他の店入って競争なんて聞いたことないな」
「あ、チーフ。違います。オレと忍は恋人です」
キッと言い返す顔を手で払う。
「いいから、早く行け。連れて行け」
バタンと閉まったドアを見つめる。
名義屋の影に歌舞伎町がざわつく中で、ああいう存在は貴重かもしれないな。