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あの店に彼がいるそうです
第10章 最悪の褒め言葉です
何分経ったんだろう。
類沢が戻ってきた時には全身が凝り固まっていた。
拓が飛び上がるように立ち、反応を待つ。
「なにも、聞いてないの?」
確かに、そう言ったんだ。
拓を見て。
「なん……」
言葉が続かない。
類沢の眼差しは重く冷たかった。
拓はストンと椅子に落ちた。
「あれで仕事をやっていたなら……全く呆れるよ。弱音も吐かなかったんでしょ」
「一度も……さっきまでだって、一緒に料理やって、いつも通り……忍、どこか悪いんですかっ」
待合室に声が響く。
いくつもの咎めるような視線に囲まれながら、類沢に連れられて外に出る。
悠は仕事に帰ったらしい。
なんだろう。
凄く、頭が痛い。
現実逃避する脳と、現実に苦しむ体。
木漏れ日が揺れる病院の中庭。
車椅子を引くペアが何人か穏やかな顔で散歩している。
「類沢さん」
拓が立ち止まって云った。
「忍に何が起きてんですか」
類沢は振り返らずに歩き続けた。
どんどん離れる距離に耐えられなくなった俺が走ってその肩を止めた。
「話してください……類沢さんっ」
風が凪ぐ。
こちらを向いた口が、短く告げた。
宣告みたいに。
俺を突き落とす一言を。
「劇症肝炎って知ってる?」
どうして頷けるだろう。