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あの店に彼がいるそうです
第13章 今別れたらもう二度と
「さんご……っ、まあ、飲むか……っ。お前、それどっから聞いた情報だ?」
声を潜める。
玲は煙草をぐりぐりと灰皿に押し付けながら吐き捨てるように言った。
「ケイだ」
「ケ……イ」
圭吾の父親。
一介のホスト如きでは連絡を取ることさえ許されない凄腕のフィクサー。
歌舞伎町内では、八人集のみがコンタクトしているとのうわさだ。
「なんでお前それ……」
「今の仕事相手ってのは、言いたくないが八人集の一人だ。そっからの情報だから確かだと思ってる」
ちょっと待て。
ちょっと待てよ。
混乱しすぎておかしくなりそうだ。
数十分前までは類沢雅の前に銃を突き付けて立っていたというのに。
今は自棄飲みしながら自分の危機を話し合ってるなんて。
「だから今すぐガヴィアなんて辞めちまえ」
「なんでそうなるんだよ……」
日本酒を互いの御猪口に注ぐ。
透き通った水面を一瞥して、ぐいっと喉に流し込む。
店で飲むワインとは違う熱がウアッと過ぎる一瞬を味わう。
「お前は類沢雅を陥れる方法を探すのに集中すればいいんだろ」
「あ?」
「今の週五日ホスト生活だと手軽く情報屋に頼む程度しかできない。それで今回の失敗だ。これからもその繰り返しだぜ? それで言葉通りそれが生き甲斐になっていく。そんなの面白くねえだろ。だったらさっさと目的果たして違う目的作れってんだろ」
「偉そうに言う……俺がどんな思いで今日に臨んだかも知らねえ癖に」
パタタ、と涙が零れる。
もう乾ききったと思っていたのに。
堰を切ったように絶えず頬を濡らす。
「そんなんホストやりながらだって最優先で考えてきたんだよっ! その結果がこのザマだ! じゃあなんだ!? お前と組んで店辞めれば最高の方法を思いつくってでも言いたいのか? お前の勘かそれもっ!?」
泣きながら喚いて。
馬鹿みてえ。
冷静に戻ろうとする自分がまたおかしくて頬が緩む。
玲もそんな俺に少し赤い顔で微笑む。
「そういうことかも」
ハンカチを渡される。
乱暴に目を擦る。
「オレは、聖に身体売って欲しくないんだ。それはわかるだろ」
「なんでわかるんだよ。つか、玲って何にも関心なかったじゃん。なんで今更俺どうこうって」
「今日の泣き顔がキタ」
「ふざけんなっ」
ジョッキを振りかぶる。
「お客様!」
なんとか押しとどめる。
「考えとく。飲むぞ」