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あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました

「ケイから見せてもらった十二歳の類沢の写真を見て、興味が湧いた。初めはそんなところだった。オペラに連れて行っただろう? あれはずっと夢の店だった。シエラをまとめる前からの。そこに働くホストにふさわしいと直感で思った。単純に。それだけだった。世界に諦めたみたいな妙に悟ったあの蒼い瞳か? 残像を残していったんだ。それから秋倉の店に客として行った」
 話の先が読めた俺が目を見開くと、篠田は苦笑して手を振った。
「別にあいつを抱きに行ったわけじゃない。ただ、実物を見てみたかったんだ。ビルの一番奥の部屋で、ベッドに座った背中を見たとき、直感は正しかったと確信した」
 灰色の壁に真っ白のシーツの上、ほっそりとした背中が目に浮かぶ。
 長い紫がかった黒髪が垂れて、浮いた骨に沿うように揺れる。
「悲惨な体だったよ。何発殴られたか、何回鞭で打たれたか、何度骨を折られたかわからないほど、怪我のない場所がなかった。それでもあいつは綺麗だった。今と同じくらい、言い知れない迫力があったんだ」
 腕を組んで机に寄りかかる篠田が目線を床に落とす。
 ぎしり、と木が軋んだ。
「俺はまずあいつに云った。俺の店に来ないかって。今考えるとバカみたいな誘いだったがな。雅は薄く笑ってこう云った。こことそっちで何が違うの?ってな。俺も秋倉と同じ職業だと思ったんだろう。そこからは時間いっぱい交渉した。ホストの夢を延々聞かされたのはある意味厄介な客だっただろうな。帰ろうとしたとき、抜いていかなくていいのかと笑われた。ふっ……あの目は今でも忘れられないな。小馬鹿にしたような、それでいて少し認められたような」
 類沢と篠田。
 今でこそ唯一のパートナーだが、初対面は男娼と客だったのか。
 俺より少し年上の類沢が空想の中でベッドに横たわり微笑む。
 誘うように、撥ね退けるように。
 高嶺の花のように。
 だが次の瞬間暴力の渦に飲まれる。
 俺が鵜亥と汐野にやられたよりももっと酷く。
 霧のように掠れて消えた映像の向こうで篠田が煙草をくわえる。
「何故あいつが秋倉の元にいたかも聞いたか?」
「弦宮麻耶さんのいた施設から逃げ出して……って」
「そうだな。小木のメモ一枚でその後十年を決められてしまった。宿から出たあいつはそれを後悔なんてしてない口ぶりだった。何が幸せかも不幸かもわからないと笑いながら」
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