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あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
 嗚咽が漏れそうになる。
 今頃また全身が痛い。
 あんなにも心細い時間はなかった。
 あんなにも助けを求めた時間はなかった。
 あんなにも類沢さんに会いたかった時間はなかった。
 それなのに、俺が求めた人はもう手が届かないところに行ってしまっている。
 ここにいれば、この家にいれば必ず帰ってきたのに。
 その安心感すら消え失せて。
 ハンカチを顔に押し当てる。
 やっと知ったのに。
 沢山のこと。
 今なら呆れられずに何かを語れるかもしれないのに。
 何かを含んだような笑みしか見れないとしても。
 そうだとしても。
 俺は貴方と話したい。
 許してくれるなら怒りをぶつけたい。
 叶わないなら抱きしめてほしい。
 頭を撫でてくれるだけでもいい。
 からかうようにキスされるのもいい。
 ただ、会いたい。
 会いたい。
 少しだけ理解したのに。
 震える肩を篠田が掴んだ。
「お前が目覚めてから動こうと思っていた」
「……え」
 動く。
 何をするために。
「ちょっと待ってろ」
 篠田がリビングの方にいったん消える。
 誰かを呼びに行くように。
 それから、三人の男が入ってきた。
 知っている顔はない。
 後から篠田が来て説明する。
「お前を助ける手助けをしてくれた。キャッスルの紫野恵介とスフィンクスの戒、その恋人の巧だ」
「誰が恋人だ」
「あたりやんか。何を言うてん」
「一応いろいろ大変だったんだから約束守ってくださいよ~、篠田さん」
 ぽかんとした俺の前で各々好き勝手に云う。
 そんな様子に気づいた篠田が手を叩いて黙らせる。
「愛をはじめとしてシエラのホスト達、吟に我円達も協力してくれた。だが、この三人がいなければお前はまだあそこにいただろう。戒と巧は堺で鵜亥と関わっていてな、交渉をしてくれたのはこの二人だ。それから恵介は岸本忍の手術について裏で手をまわしてくれた。そうだ、もう手術は終わっている。あとで病院に行くぞ」
「えっ。忍助かったんですか!?」
「ああ。一重にお前のお陰だ」
 張りつめていた何かが切れたように涙がぼろぼろ流れる。
 さっきやっと止めたのに。
 恵介がぎょっとした顔をしたが、戒も巧も黙って見守った。
 拓は知っているだろうか。
 もう会いに往ってるか。
 よかった。
 助かったんだ。
 鵜亥はすぐに医療チームは手術に入れると言っていた。
 
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