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あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました

 そこは守ってくれたのか。
 電流を流して愉しそうに唇を持ち上げていた姿からは思わなかった律義さだ。
「……凄いんね」
 ぼそりと巧が言った。
 顔を上げると、俺と同い年にしか見えない青年が瞳を震わせていた。
「あの鵜亥はんに一人で取引きしたんやね。誰にも言わずに。ダチの為に。凄いんねそれって」
「巧……」
「戒。おれにはでけへんわ。戒に救ってもらって、恵介も含めてみぃんな置いてきたおれにはでけへんわ」
「やめろよ、そういう話」
 なんだ。
 ついていけないが、巧は感心したように俺をじっと見ていた。
 あ、そうだ。
 忘れてはいけないことを忘れていた。
 三人を向いて、深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
 ぽたぽたと涙が目の前のシーツに落ちる。
 あの地獄の時間から救い出してくれたほかでもない三人。
 篠田チーフにも、ちゃんとお礼言ってなかった。
 そうだ。
 もっともっと沢山の人が、俺の自分勝手な行動の裏で手をまわしてくれていたのだ。
 かあっと血が上る。
 それなのに俺は類沢さんのことしか考えてなくて。
 ああすげえ恥ずかしい。
 俺はどこまでバカなんだ。
「頭上げえや。おれらかて、ちゃんと利益ももろたんやから」
「そうだ。慈善じゃない。仕事だ。感謝なんていい」
「おれもこれでキャッスル抜けられるし」
 明るく。
 そうふるまっているのか本心なのか。
 俺の頭じゃ考えられないくらい大変なことをしてくれただろうに。
 涙が止まらない。
 ぽんと頭に手が置かれる。
 類沢さんの感触とはまた違う。
 篠田チーフの頼れる手。
「今回にかかった全てのことは俺が賄ってやる。だが、二度とするな」
「……はい」
「じゃあ着換えろ」
 三人が何かを話しながら出ていく。
 篠田が傍らに置いてあった服を俺に投げた。
 動かせるか、じゃない。
 痛くて固い体を動かすんだ。
 立ち上がって服を持ち上げる。
「着替えたら病院だ。そのあと」
 シャツから首を出したとき、見たことない真剣な眼で篠田が俺を見据えた。
 じわりと体が熱くなる。
 そうだ。
 次の言葉がわかったから。

「雅に会いに行くぞ」

「はい」

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