この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
新宿から中央線で一駅。
二人で四ッ谷駅の周辺を歩く。
あてもなく会話のリズムを崩さないようにゆっくりと、四ツ谷口から手鞠口の方へと。
大学はどうとか、他のホストの話とか。
駅前の信号で立ち止まったときに、河南が徐に口をつぐんだ。
その沈黙が、妙に長く感じた。
「河南、その」
「私はね」
呼びかけを打ち消すように、河南が鋭く遮る。
青に変わった信号の下を大勢の足が動き始める中、突っ立って。
目線は合わさないまま。
「瑞希が、幸せになればいいなあて思ってるよ」
沢山の意味を伴って。
「大学休んでホストになったときはびっくりしちゃったけどね。類沢さん、篠田さんに会って、見たことない瑞希を見てさ……だって、大学だとやりたい専門分野の教授がいないって毎日不満そうだったでしょ。だからホストの仕事に、シエラでの生活にやりがいを持ってる瑞希は見ていて素敵だった。安心した。本当に頑張ってるんだなあって。私も頑張ろうって」
「そんな大したことはしてないよ」
気恥ずかしくなって苦笑いしながら訂正する。
しかし河南は小さく首を振った。
「でもね。瑞希がどんどん知らない方向に行くのは見ていて置いていかれているような気がした。なんでだろうね。だめだって思っちゃうの。もう後悔はしたくないなあって。今までそんなの感じたことなかったんだけどね。前までは少しは近くにいた私の未来が、こう、どんどん瑞希から離れて行っちゃうような……イメージ? どういえばいいかな」
「俺が大学に戻らないって、思ってる?」
また信号が赤に変わる。
周りの通行人が時が止まったように停止する。
「ふふ。それはオペラに連れて行ってもらった日に見て取ったよ。戻るつもりないでしょう?」
喧騒も遠ざかって。
「うん。どうだろうね」
ひんやりとした河南の手が俺の手に触れる。
どちらからともなく指を絡める。
「どこ行っちゃったんだろうね」
大勢の人ごみに問いかけるように、呟くように。
俺もそうだね、と頷いてみる。
二週間。
篠田チーフの持ち得る総てのネットワークと人脈で探し続けてきた。
だが、見つからなかった。
俺はただ、類沢さんの家で待つだけ。
仕事を続けながら。
「どこ行ったんだろな。あの人」
青に変わった信号を見上げて二人で足を踏み出す。