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あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
 キャッスルとシエラ。
 その双方のチーフが並んでバーカウンターに腰かける。
 適当に世間話をしながら三杯目を飲み干したあと、篠田が苦そうに話し出す。
「紫野恵介がな、いつになったら働かせてくれるのかって何度も店に来ている。お前にも話は行ってるんだろう? 雛谷」
 青年のように幼い顔を飲みかけのシャーリーテンプルに向け、溜め息を吐くように笑う。
「んー。そうだねぇ。聞いてましたよ、ずうっと。まー……鵜亥と繋がってたのはショックだったけどねぇ。これでもデビューから結構可愛がってたんですよ」
 カラン、と。
 どこかの客の酒に氷が沈む音。
 そう。
 そんな音すら聞こえるくらい静かな店。
「でもねぇ……ほら。オペラで使ってくれるつもりなんでしょう? それならいいかなぁって。紫苑はずっと不機嫌だけどね。そろそろ派閥も整えたし、恵介が抜けても大丈夫になりますよ」
 マスターが酒瓶の列の前をコツコツと足音を奏でながら移動する。
 二人は何の気なしにその足元を目でゆっくりと追った。
「よろしくお願いしますね」
「……ああ」
 長く勤めたホストが他店に移動する。
 軋轢を生みかねないからあまり多くはないらしい。
 だが、篠田と雛谷は八人集のつながりも関係し、機を見計らいながら問題のないように環境を整えてきた。
「楽しみだなあ、オペラ」
「いつになることか」
「うん……類沢さんが帰ってこない分にはねえ」
 マスターの手が止まったが、雛谷は干渉を許さない目線で好奇心を押さえつけた。
 情報に通じるマスターはこの手の話題の最新情報を欲し、それを引き出すことに長けている。
 でも今はそれをしていい場合じゃない。
「そうだな……噂になってるだろ」
「……まあねえ」
 恵介の異動にこれだけ神経を使っておいて、トップの突然の失踪になにもできないなどなんて皮肉だ。
 まったく。
 篠田は一息吐いて、マスターに自ら声をかけた。
「なあ。あんたいつも雛谷と賭けやってるんだろう? 丁半の」
「……ええ」
 意外なコンタクトに店内の馴染み客たちもざわめく。
 篠田はにやりと口の端を上げて言った。
「俺とやってくれないか」
「篠田さん……」
 雛谷が目を見開いたが、すぐにマスターはダイスとカップを用意した。
「ええ。どうぞ」
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