この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです
「おれ結構みぃずき好きだったんだよ」
大で頼んだ日本酒を注がれる。
俺は御猪口を持ってそれを受け取った。
名前も憶えていなかったホスト達からも労いと乾杯を貰った。
「瑞希さんが……いなくなっちゃうなんて……っう……おれ、おれ絶対……瑞希さんと……うえっ、もっとずっと……」
「泣くなよ、三嗣。こっちまで……」
「一兄まで泣いてどうすんの」
「なんか、みんな本当にありがとう」
ティッシュを何枚も渡す。
泣いて悲しむ人がいるなんて。
想像もしなかった。
酒のせいもあるだろうけど。
「やっぱ大学戻んの?」
アカが火照った顔をして尋ねる。
みんな店の後によく飲めるな。
「とりあえずはそうしようかなって思ってる。休学期間はもう少し先だから、二か月くらい休みだけどな」
「じゃあ二か月働けばいいのに。なにすんの」
「決めてない」
これは嘘。
半分嘘。
「探しに行くの?」
酒を持つ手が止まる。
流石アカ。
誰もが避けてたことも真っすぐ訊いてくる。
「うん……どうだろ。なんとなく、いそうな場所には行くかも」
「会えたらいいね。おれも会いたいなあ。なあんか物足りないんだよね。あの完璧な男みたいなのが店にいないとさ。あのVIP空間も虚しいっていうか? おれじゃまだ埋められない。あの人ってさ、まさにシエラそのものだったっつうの。すげー存在だったよな」
二か月ちょいの俺には何も言えない。
でも、確かにそう思った。
「アカさんがそのうちそうなってくださいよ!」
「アカさん最高!」
「我らがトップ!」
後ろからビール瓶を持った男たちがどやどやと。
みんな赤ら顔で。
「お前らが作り上げるんだよ!」
それを嬉しそうにアカが相手する。
十数人でわいわい飲むのは、八人集も参加したあの時とは違って、どこまでも快適で、ずっとここにいたいって思わせた。
でも、いられない。
きっとこれが、最期の彼等との気兼ねない飲み。
同じ店の仕事仲間として。
誰もが笑って。
また考える。
何度だって。
なんで、いねえの。
ここに。
なんで。
なあ。
苦いお茶でもいいからさ。
辛いワインでもいいからさ。
一緒に飲みたい。
類沢さん。
「みぃずきに乾杯!」
「アカさん一位に乾杯!」
「シエラに乾杯!」
曖昧な記憶を残して飲み会が終わる。