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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです

「おれ結構みぃずき好きだったんだよ」
 大で頼んだ日本酒を注がれる。
 俺は御猪口を持ってそれを受け取った。
 名前も憶えていなかったホスト達からも労いと乾杯を貰った。
「瑞希さんが……いなくなっちゃうなんて……っう……おれ、おれ絶対……瑞希さんと……うえっ、もっとずっと……」
「泣くなよ、三嗣。こっちまで……」
「一兄まで泣いてどうすんの」
「なんか、みんな本当にありがとう」
 ティッシュを何枚も渡す。
 泣いて悲しむ人がいるなんて。
 想像もしなかった。
 酒のせいもあるだろうけど。
「やっぱ大学戻んの?」
 アカが火照った顔をして尋ねる。
 みんな店の後によく飲めるな。
「とりあえずはそうしようかなって思ってる。休学期間はもう少し先だから、二か月くらい休みだけどな」
「じゃあ二か月働けばいいのに。なにすんの」
「決めてない」
 これは嘘。
 半分嘘。
「探しに行くの?」
 酒を持つ手が止まる。
 流石アカ。
 誰もが避けてたことも真っすぐ訊いてくる。
「うん……どうだろ。なんとなく、いそうな場所には行くかも」
「会えたらいいね。おれも会いたいなあ。なあんか物足りないんだよね。あの完璧な男みたいなのが店にいないとさ。あのVIP空間も虚しいっていうか? おれじゃまだ埋められない。あの人ってさ、まさにシエラそのものだったっつうの。すげー存在だったよな」
 二か月ちょいの俺には何も言えない。
 でも、確かにそう思った。
「アカさんがそのうちそうなってくださいよ!」
「アカさん最高!」
「我らがトップ!」
 後ろからビール瓶を持った男たちがどやどやと。
 みんな赤ら顔で。
「お前らが作り上げるんだよ!」
 それを嬉しそうにアカが相手する。
 十数人でわいわい飲むのは、八人集も参加したあの時とは違って、どこまでも快適で、ずっとここにいたいって思わせた。
 でも、いられない。
 きっとこれが、最期の彼等との気兼ねない飲み。
 同じ店の仕事仲間として。
 誰もが笑って。
 また考える。
 何度だって。

 なんで、いねえの。

 ここに。

 なんで。

 なあ。

 苦いお茶でもいいからさ。

 辛いワインでもいいからさ。

 一緒に飲みたい。

 類沢さん。

「みぃずきに乾杯!」
「アカさん一位に乾杯!」
「シエラに乾杯!」
 曖昧な記憶を残して飲み会が終わる。
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