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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです
 それから二週間後の昼下がりだった。
 八人集が一同集まり、篠田の部屋で一つのテーブルを囲んで立ち並ぶ。
「ここに入れるなんて思わなんだな」
 吟が黒いハットをずらして呟く。
「どうせならパーティとかで呼ばれたかったけどな。カスタムパーティとか」
「おやおやおや。空牙氏……それでは篠田氏がホストになってしまいますではございませんか」
「我円の兄さんは細けぇんだよ」
 バチバチと見えない火花を間で浴びる伴が、救いを求めるように篠田に言葉を促す。
 雛谷と紫苑は壁際で様子を見る。
「ああ。とりあえず集まってくれたことに礼を言う。一人足りないわけだが」
「ないと思うけど、後釜はいらないよ~? 類沢さん以外考えられないからね」
「空斗……」
「わかっている。俺もそのつもりだ。あいつ以外はここには呼ばないさ」
 全員が微かに頷く。
 伴や空牙が新参とはいえ、これ以上メンバーが増えることはないと皆黙認していた。
 各店から二人ずつ。
 それが一番丁度良い。
「雅が見つかったんじゃな」
 吟の言葉が部屋を波打たせる。
 静かに唇を舐めた。
 ここでの発言は重い。
 だからこそ。
 篠田は短く息を吸った。

「来月シエラを手放すことにした」

 六人が瞬きすらせず固まる。
「経営に関しては、紅乃木と愛に任せることにした。俺はオペラを開業する」
 まだ動揺が波打っている。
 我円が口に手を当てた。
「これはこれは……予想外の発言では御座いませんか、篠田氏」
「恵介が移籍した途端なんてね~。まあ、そろそろだとは思ってたけどお」
「なぜ今なのか、聞いてもよいか?」
 吟がじっと答えを待つ。
 四十年間、歌舞伎町から離れなかった老師は、静かに決断を見つめていた。
 そこには非難も肯定もない。
 ただ、去る者の理由だけ伺いたいと。
 そんな空気を携えて。
「オペラには、類沢さんが必要だと思っていましたけどね」
 紫苑の言葉に賛同の視線が重なった。
「ああ。俺もそう思っていた。あいつがいなくなって、冷静になったんだろう。類沢ありきの夢なんて、歌舞伎町一のホストクラブチーフらしくないだろう?ってな」
 ふふっと伴が吹き出した。
 それを父親の我円が諌めるが、彼の目も微笑んでいた。
 そうだった。
 古株の二人が頷き合う。
 類沢雅が来る前の篠田春哉という人間は、こういう男だった。
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